SIerはやめとけ? 下請法の違反件数が全業種トップの686件だった

会議室の長机で、白いシャツの男性が注文書を階段状に4枚並べている。一番上の紙に「元請 18.5%」、一番下の紙に「最終下請 33.5%」と印字されている 転職・年収
カツジン

書いている人:カツジン(元銀行員 → M&A仲介・IT人材紹介 → 経営)。企業が誰にいくら払うかを見てきた立場から書いています。詳しく

PR 本記事は広告を含みます。

「SIerはやめとけ」と書かれているのを見て、ここに来たのだと思います。

理由として並ぶのは、多重下請け、中抜き、単価が安い、技術力がつかない。どれも聞いたことがある話で、そのぶん本当なのかが分かりません。

公正取引委員会が、ソフトウェア業の取引実態を2万1000社に聞いた調査を出しています。「やめとけ」と言われている中身が、そのまま調査項目になっていました。

686
情報サービス業の下請法違反の措置件数。全業種でトップでした
出典:公正取引委員会「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」(令和4年6月公表)。令和3年度の実体規定違反に係る措置件数

ただし、この数字だけで判断すると間違えます。同じ「SIer」でも、いる場所で数字がまるで違っていました。順に見ていきます。

違反件数が、全業種でトップだった

まず、業界の外から見た数字です。公正取引委員会が令和3年度に下請法違反として措置した件数を、業種別に並べたものです。

業種 件数
情報サービス業 686
機械器具卸売業 678
道路貨物運送業 648
金属製品製造業 617
生産用機械器具製造業 612
全業種の合計 7,878

業種は日本標準産業分類の中分類ベース。出典:同報告書(令和3年度・実体規定違反に係る措置件数)。上位5業種を抜粋

2位以下と大きく開いているわけではありません。ただ、製造業や運送業を抑えて、情報サービス業が1位に来ています。

内訳を見ると、支払遅延が82.7%を占めていました。次いで買いたたき9.2%、下請代金の減額6.4%です。

報告書は、この数字にも但し書きを付けています。ソフトウェア業にはそもそも下請法の適用対象にならない取引が相当程度あるため、件数として表に出ているものの外側に、独占禁止法上の問題となるケースが潜在的に存在する可能性がある、と。

つまり686件は、見えている分だけの数字です。

同じ「SIer」でも、階層で数字がまるで違う

ここからが本題です。同じ調査で、回答した事業者を元請・中間下請・最終下請に分けた数字が出ています。これを見ると、「やめとけ」が誰に向けた言葉なのかが分かります。

「中抜き」を感じたのは、最終下請の33.5%

調査では「中抜き」事業者を、商流上は形式的に関与するだけで、実際には何も業務をしていないのに利益を上げている者と定義しています。そのうえで、自社が参加したプロジェクトでそういう事業者の存在を感じたことがあるかを聞いています。

立場 中抜きを
感じた
価格交渉が
不十分
元請 18.5%
中間下請 29.2% 34.3%
最終下請 33.5% 44.6%
全体 25.9% 37.9%

出典:同報告書。中抜きの実感は回答数4,346(元請1,711/中間下請1,690/最終下請945)、価格交渉は回答数2,622(中間下請1,696/最終下請926)。価格交渉の設問に元請の区分は公表されていない

元請の18.5%に対して、最終下請は33.5%。1.8倍の開きがあります。下に行くほど、間に何もしない会社がいると感じている。

価格交渉ができないのも、下に行くほど

同じ表の右の列です。価格交渉が十分にできていないと答えた割合は、中間下請34.3%に対して最終下請44.6%。こちらも階層が下がるほど増えます。

逆に言えば、全体では62.0%が「価格交渉はできている」と答えています。業界全体が交渉できない場所というわけではありません。できない側に偏りがある、という話です。

「SIerはやめとけ」が当たるかどうかは、業界ではなく、自分が商流のどこにいるかで決まります。
同じ調査の同じ設問で、元請と最終下請の数字がここまで割れているのがその証拠です

実際に、何社挟まっているのか

報告書には、事業者から寄せられた声もそのまま載っています。数字より、こちらのほうが実感に近いかもしれません。

最大で4次請け案件の経験がある。その案件ではエンドユーザーへの質問のたびに中抜き業者がメールをたらい回しにしていた
エンジニアの準委任契約(SES)では最大5社が中間に入るケースがあり、間に入っている企業は何もしない
同業者Aから受注した際、商流は「発注元→同業者A→弊社」と聞いていたが、「発注元→同業者B→同業者C→同業者D→同業者A→弊社」となっていた
ソフトウェア会社とは名ばかりで、実際には技術者が一人もおらず、中抜き営業のみを行っている会社がいる

出典:同報告書に掲載された事業者からの回答(原文のまま。一部を抜粋)

見積100が、契約50になる

金額についても、具体的な声が載っています。

事務机の上の注文書。金額欄で印字された100に赤い二重線が引かれ、その隣に赤ペンで50と書き直されている。左端の押印欄には会社の判子が4つ押されている
元請事業者→当社の取引と思っていたところ、後から、元請→元請子会社→元請子会社の関連会社→当社の商流となり、当初元請事業者に提示した見積額を100とすると、最終的な契約額は50まで値下げさせられた

出典:同報告書。報告書はこれを買いたたきに該当し得る事例として挙げている

作業内容は変わっていないのに、間に会社が増えたという理由で半額になった、という話です。報告書はこれを「下流しわ寄せ型の問題」と呼んでいます。上流で決まった予算の不足が、そのまま下へ流れていく構造です。

人材紹介にいたころ、SIerから相談に来る人の話を何度も聞きました。技術がつかないという悩みより多かったのは、自分の仕事が誰の役に立っているのか分からないという言い方でした。商流が長いと、エンドユーザーの顔が見えません。

いまの経験に、市場がいくら出すのかを先に見る

階層の話が効いてくるのは、転職のときです。同じ年数を積んでいても、どの階層で何をしていたかで提示額が変わります。そしてそれは、求人票を眺めていても分かりません。

strategy careerは、エンジニア経験者に特化した転職エージェントです。扱う求人が経験者の中途採用に絞られているので、いまの実務経験で、元請側や事業会社の求人にどこまで届くのかを、実際の求人と提示年収で確認できます。いる場所を変えるべきかどうかは、外の金額を知ってからでないと判断できません。辞める前提で動く必要はありません。

対象の条件 エンジニア経験者の方が対象です(実務未経験の方は対象外)。就職先は東京・大阪エリアが対象になります。

\ 面談は無料 /

やめとけが当たるのは、どこにいるかで決まる

ここまでの数字を並べ直すと、「SIerはやめとけ」という言い方は、正確ではありません。

正確に言うなら、多重下請け構造の下層にいるとやめとけです。元請の18.5%と最終下請の33.5%は、同じ業界の同じ設問の数字です。

SESとSIerは、何が違うのか

混同されやすいので整理しておきます。SIerはシステムを請け負って作る会社のことで、SESはエンジニアの労働時間を提供する契約形態のことです。会社の種類と契約の種類なので、本来は並べて比べるものではありません。

職種としてのSEの残業は、賃金構造基本統計調査で月11時間、144職種の真ん中です。やめとけが当たるのは職種ではなく商流だという同じ結論に、システムエンジニアはやめとけ?でも別の統計から着地しました。

ただ実態としては、SIerの下層でSES契約の技術者が働いている構造があります。先ほどの声にあった「SESでは最大5社が中間に入る」は、まさにその話です。SES側の詳しい実態は、SESを辞めたいは甘えじゃないのほうに書きました。

SESという契約そのものが派遣と何が違うのか、一人常駐がどこから偽装請負になるのかは、SESはやめとけ?で厚生労働省の告示から整理しています。

どちらにしても、見るべきなのは会社の看板ではありません。自分の契約が、エンドユーザーから数えて何番目にあるかです。

これは面接でも聞けます。「この案件はエンドユーザーとの直接契約ですか」「間に何社入りますか」。答えられない会社は、その時点でひとつ分かります。

受託を離れて事業会社側へ移る道については、「社内SEはやめとけ」と言われる理由のほうで、面接で確かめる3つの質問まで書きました。年収そのものの水準はSEの年収は574万か752万かで、企業規模別の実額から整理しています。

よくある質問

SIerはやめとけと言われるのはなぜですか?

多重下請け構造の下層で、単価と裁量が下がるためです。公正取引委員会「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」では、「中抜き」事業者の存在を感じたと答えた割合が元請18.5%に対し最終下請33.5%、価格交渉が十分にできていないと答えた割合が中間下請34.3%に対し最終下請44.6%でした。業界全体の問題ではなく、階層による差が大きい構造です。

SIerの多重下請けは何次請けまであるのですか?

同報告書に寄せられた事業者の声では「最大で4次請け案件の経験がある」「エンジニアの準委任契約(SES)では最大5社が中間に入るケースがある」との回答がありました。また商流を聞いていた話と実際が異なり、4社を経由していた事例も報告されています。何次請けまでという上限の定めはありません。

SIerとSESの違いは何ですか?

SIerはシステムを請け負って開発する会社の種類、SESはエンジニアの労働力を提供する契約の種類です。並べて比較するものではありませんが、実態としてSIerの下層でSES契約の技術者が働く構造があるため、混同されやすくなっています。

SIerから転職するなら、どこを見ればいいですか?

会社の規模や知名度ではなく、商流の位置です。エンドユーザーから数えて何番目の契約になるのか、間に何社入るのかを面接で確認してください。同報告書の数字は、この位置によって単価と交渉力が変わることを示しています。

情報サービス業の下請法違反はどのくらいありますか?

令和3年度の実体規定違反に係る措置件数は686件で、全業種7,878件のうち中分類ベースで最も多い業種でした。内訳は支払遅延82.7%、買いたたき9.2%、下請代金の減額6.4%です。なお同報告書は、下請法の適用対象とならない取引も相当程度あるため、表に出ている件数の外側にも問題が存在する可能性を指摘しています。

多重下請けの外側に出る、という選び方

商流の位置で条件が決まるなら、発注する側に回るという選択肢があります。事業会社の社内SEや情報システム部門は、エンドユーザーそのものの立場です。間に会社が入りません。

社内SE転職ナビは、社内SEと自社開発の求人に特化した転職エージェントです。一般の求人サイトだと社内SEの求人は他職種に埋もれますが、ここは扱う求人がその領域に絞られています。いまの経験で受託から事業会社側へ移れるのかを、求人の実物で確認できます。

対象の条件 エンジニア経験者の方が対象です(実務未経験・エンジニア以外の職種は対象外)。45歳未満で、関東・関西・北海道での勤務を希望する方が対象になります。

\ 相談は無料です /

やめとけと言う人も、悪くないと言う人も、たいてい自分がいた階層の話をしています。
先に確かめるのは、会社の名前ではなく、自分の契約が何番目かのほうです。

参考出典:公正取引委員会「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」(令和4年6月29日公表)。資本金3億円以下のソフトウェア業2万1000社を対象としたアンケート調査およびヒアリング調査に基づく

本記事の数値は同報告書によります。アンケートは設問ごとに回答数が異なり、本文中に各設問の回答数を記載しています。価格交渉の設問については元請の区分が公表されていないため「―」としました。下請法の措置件数は令和3年度の実体規定違反に係るもので、日本標準産業分類の中分類「情報サービス業」にはソフトウェア業以外の事業者も含まれます。事業者の声は報告書に掲載された回答の抜粋であり、個別の取引状況は企業によって異なります。サービス内容・対象条件は公式サイトの記載(2026年9月時点)に基づくため、申込前に必ずご確認ください。

カツジン

この記事を書いた人:カツジン

平成2年生まれ・九州在住

元銀行員。M&A仲介とIT人材紹介の会社で、会社の値段と人の市場価値が決まる現場を3年見てきました。いまは事業承継で小さな会社を経営しています。

誰に、何のために書いているか

文系・未経験からITへ動くか迷っている人に向けて書いています。国の統計と、人材紹介で「企業が誰にいくら払うか」をみてきた経験から、いまどこにいて次に何をすれば年収が動くのかを書いています。きれいごとは書きません。

約束していること

数字は一次情報まで遡って確かめます。向いていない人がいることも、そのまま書きます。記事には広告を含みますが、条件に合わない人には勧めません。

銀行 10年M&A仲介・IT人材紹介 3年事業承継で経営

転職やキャリアのことで気になることがあれば、いつでも気軽に連絡してください。売り込みはしません。

転職・年収

コメント